「借金返済」新株予約権に対する所得税の算定方法

関係
地方
警察

主文

1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1 請求

白河税務署長が,原告に対し,平成19年6月29日付けでした,平成18年分の所得税に係る更正処分のうち課税総所得金額1億7054万4000円,納付すべき税額6240万8600円を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定処分(ただし,いずれも,平成19年10月26日付けでされた異議決定及び同20年10月30日付けでされた裁決により一部取り消された後のもの)を取り消す。

第2 事案の概要

1 本件は,原告が民法上の組合を通じて取得した新株予約権の行使による経済的利益について,原告の相当と考える算定方法により計算した金額を雑所得として平成18年分の所得税の修正申告を行ったところ,白河税務署長が,当該経済的利益に係る所得は雑所得に該当し,また,その経済的利益の算定の基礎となる株式の価額は,権利行使の日における証券取引所の公表する最終価格(以下「終値」という。)によるべきであるとして,更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分を行ったのに対し,原告が,1当該経済的利益は一時所得に該当する,2原告が取得した新株予約権には特殊な事情が存在するため,当該経済的利益の算定に当たっては,その事情を考慮して算定した額を基準とすべきであるなどとして,前記各処分が違法であると主張して,それらの各取消しを求めた事案である。
2 前提事実
本件の前提となる事実は,次のとおりである。
証拠及び弁論の全趣旨により容易に認めることができる事実等は,その旨を付記した。
その余の事実は,当事者間に争いがない。
(1) 原告は,民法上の組合であるA組合(以下「本件組合」という。)の組合員である。
本件組合は,株式会社B(以下「B」という。)が発行する株式(以下「B株式」という。),新株予約権等に投資すること等を目的として,平成17年4月16日に成立した。
原告は,本件組合の業務執行組合員で本件組合を代表する株式会社C(以下「C」という。)との間で,同日付けの投資事業組合契約(以下「本件組合契約」という。)を締結し,本件組合の非業務執行組合員(出資口数290口)となった。(甲1)
(2) 本件組合契約においては,組合財産は組合員の共有とされ,組合員はその出資口数の割合に応じて按分した組合持分を有し(20条),本件組合の事業に関する損益等による組合財産の増減は,すべて組合員にその組合持分に応じて帰属するものとされ(21条(1)),決算期において,実現売買損益等を含むすべての期間損益の決算がされ,その結果が組合員に各自の組合持分に応じて割り当てられる(22条(1))が,6条2項に従って組合員が出資金の全額を払い込んだ場合には,本件組合は新株予約権を直ちに行使し,発行されたB株式を当該組合員に現物分配し(22条(3)),当該株式は分配実施日の翌日から各組合員の専有に属する(24条)と規定されている。
(甲1)(3) Bは,D証券取引所市場第○部に株式を上場している企業であり,ねじの製造及び販売を主な事業内容とする株式会社である。
Bは,平成▲年▲月▲日開催の取締役会において,平成17年法律第87号による改正前の商法(以下「旧商法」という。)280条ノ21第1項に基づき,株主以外の者である本件組合に対し,概要次のとおり特に有利な条件で,名称を「株式会社B第3回新株予約権」とする新株予約権(以下「本件新株予約権」という。)を発行することについて,同年▲月▲日開催の株主総会に付議する旨を決議し,同株主総会で本件新株予約権の有利発行が決議され,同決議に基づき,同年▲月▲日,本件新株予約権を発行し,そのすべてを本件組合に割り当てた。(甲2から5まで,乙8から10まで)
ア 新株予約権の目的たる株式の種類及び数 B株式1億1670万株(新株予約権1個につき1万株)
イ 発行する新株予約権の総数 ▲個
ウ 新株予約権の発行価額 1個につき1000円
エ 新株予約権の発行価額の総数 ▲万円
オ 新株予約権の申込期日 平成▲年▲月▲日
カ 新株予約権の発行日 平成▲年▲月▲日
キ 新株予約権の行使に際し払込みをすべき額(以下「行使価額」という。)1個につき22万円(1株につき22円)
ク 新株予約権の行使により発行する株式の発行価額 1個につき22万円(1株につき22円)
ケ 新株予約権の行使により発行する株式の発行価額の総額 25億7907万円
コ 新株予約権の行使期間 平成▲年▲月▲日から平成▲年▲月▲日まで(4) 原告は,平成18年1月25日,本件組合契約の定めに従い,原告の出資口数290口のうちの190口について,4287万1790円の出資払込みを行った。
本件組合は,この原告の出資払込みを受けて,同月26日,Bに対し,本件新株予約権190個を行使し(以下「本件権利行使」という。),原告は,B株式190万株を取得し,これによる経済的利益(以下「本件経済的利益」という。)を得た。(弁論の全趣旨)
(5) D証券取引所市場第○部におけるB株式の本件権利行使日(平成18年1月26日)の終値は,1株当たり195円であった。(乙17)
(6) 課税処分等の経緯は,次に記載するほかは,別紙1記載のとおりである。
ア 原告は,平成19年3月14日,原告の平成18年分の所得税につき別紙1の「確定申告」欄記載のとおりの確定申告をし,同19年6月1日,同「修正申告等」欄記載のとおりの修正申告をした。
(乙1,15の1及び2)
イ 白河税務署長は,平成19年6月29日付けで,原告に対し,別紙1の「更正処分等」欄記載のとおりの更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をした。
原告は,同年8月1日,白河税務署長に対し,異議申立てをしたところ,白河税務署長は,同「異議決定」欄記載のとおり,上記更正処分及び賦課決定処分のそれぞれ一部を取り消す決定をした。
(甲6から8まで)
ウ 原告は,平成19年11月21日に国税不服審判所長に対し審査請求をしたところ,同所長は,同20年10月30日付けで別紙1の「審査裁決」欄記載のとおり,前記イの更正処分及び賦課決定処分のそれぞれ一部を取り消す裁決をした(以下,この裁決により取り消された後の更正処分及び賦課決定処分をそれぞれ「本件更正処分」及び「本件賦課決定処分」という。)。(甲9,10)
(7) 原告は,平成21年4月24日,本件訴えを提起した。
(当裁判所に顕著な事実)
3 所得税額等に関する当事者の主張
原告の平成18年分の所得税額等に関して,被告の主張は別紙2のとおりである。
これに対し,原告の主張は,別紙5「原告の主張に基づく税額のパターン」記載の「パターン1」から「パターン5」まで(このうち主位的主張は「パターン1」)のとおりである。
4 争点
(1) 本件経済的利益の所得区分
本件経済的利益は,所得税法上の「一時所得」又は「雑所得」のいずれに当たるか。
(2) 本件権利行使時のB株式の時価
上場株式であるB株式の権利行使時の時価を証券取引所の終値とすべきでない「特段の事情」があるか。
同「特段の事情」があるとした場合,その時価はいくらか。
5 争点に関する当事者の主張の要旨
(1) 争点(1)(本件経済的利益の所得区分)について
(被告の主張)
本件経済的利益は,次のことから「一時所得」には当たらず,「雑所得」に当たる。
ア 本件組合は,本件組合契約に基づき,Bが発行する新株予約権等を取得してB株式に投資することを目的として組成され,上記目的達成のため,Bから割り当てられた本件新株予約権を確保しつつ,組合員の出資金の全額払込みがあれば,Bに対してこれを行使期間内(平成▲年▲月▲日から平成▲年▲月▲日まで)に継続して行使している。
このような本件組合の目的及び当該目的達成のために本件組合が行っている行為は,正に一定の期間にわたり新株予約権の権能を保持して,自己に有利となるようにその利益を引き出すという,営利を目的とする継続的行為であるということができる。
したがって,本件経済的利益は,本件新株予約権という所得源泉のある所得であるから,「一時の所得」でないことが明らかである。
また,本件組合は,その組成に至る背景事情と本件新株予約権の行使に至る一連の行為を全体的にみれば,1Bの株主総会の議決権を確保するために,E組合にBの新株予約権を割り当て,その後行使させ,2株主総会における株式併合及び第三者割当てによる新株予約権発行の特別決議を行い,3その上で株式の併合を行い,4Bの有利発行による第三者割当増資により資産価値10倍の株式を取得するというスキームを実現するために設立されたものというべきであり,本件経済的利益は,当初から予定されていたとおり,Bが有利発行した新株予約権を本件組合が取得して権利行使することにより生じた利益であることからすれば,およそ「営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の一時の所得」であると解する余地はない。
イ 本件組合は,Bの長期安定株主となり,Bに対して新規事業の情報,ノウハウ及び人材の提供,経営に関する助言その他役務の提供を行うことを約して本件新株予約権の割当てを受けたものと認められるから,本件新株予約権を行使することによって原告が得た本件経済的利益には「対価性」(「労務その他の役務の対価」としての性質)が認められる。
(原告の主張)
本件経済的利益は,次のことから「一時所得」に当たる。
ア 本件経済的利益は,原告がBから1回の付与行為によって取得した新株予約権を1回の権利行使によって得た利益であるから,継続性又は恒常性がない所得(所得源泉性のない所得)であり,「営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の一時の所得」である。
イ 本件経済的利益は,Bから付与された新株予約権を原告の投資判断において権利行使をした結果得られた経済的利益であり,同付与後におけるB株式の時価の推移及び原告の投資判断としての権利行使のタイミングによって生じたものである。
また,原告も本件組合も,Bに対して,役務提供をする約束をしていないし,役務提供を行ってもいないから,本件経済的利益が役務提供の対価でないことは明らかである。
したがって,本件経済的利益に報酬としての性質はなく,役務提供の対価には当たらない。
(2) 争点(2)(本件権利行使時のB株式の時価)について
(被告の主張)
ア B株式は上場株式であるから,本件権利行使時のB株式の時価は,本件権利行使日のD証券取引所市場第○部における終値の1株当たり195円である。
イ 原告の主張する譲渡禁止特約が,仮にBと本件組合との合意であり,その合意によって本件組合に対して発行される株式の一部が物権的効力を有する譲渡禁止特約が付された株式となるという趣旨であれば,その合意は旧商法204条1項の脱法行為であり無効である。
また,原告と本件組合の業務執行組合員との間の確約書による合意であるとすれば,そのような合意自体,当事者を拘束する契約としての法的拘束力を持たない単なる紳士協定にすぎない。
仮に契約としての効力を認めるとしてもその合意は債権的な効果しか有さず,譲渡禁止株式の客観的な交換価値は,他のB株式と何ら異なるところはない。
よって,原告主張の「特段の事情」があるとはいえない。
(原告の主張)
ア 本件権利行使時のB株式の時価については,次のとおり,本件権利行使日の証券取引所における終値とすべきでない「特段の事情」がある。
(ア) 原告が実際に取得したB株式190万株のうち145万株については,3年間の譲渡禁止特約が付されており,かつ,当該株券を本件組合が保管することになっていたため,原告が自由に処分することができない状況にあった。
(イ) 本件権利行使は,株式併合による押上げ効果の反動による株価の下落時期においてされており,しかも新株予約権の行使に伴う大量の新株発行により株価の大幅な下落が予測されていたのであるから,本件権利行使日における証券取引所の終値は適切な時価を反映していない。
イ 原告が本件権利行使により取得したB株式190万株のうち,3年間の譲渡禁止が条件とされている株式145万株の時価については,証券取引所の終値によるではなく,前記の特段の事情を考慮して算定すべきであるところ,本件権利行使時の時価はその取得に要した価額である1株当たり22.10円とするのが相当である。
仮にそうでなくとも,少なくとも証券取引所の終値195円から20%減額した156円を1株当たりの時価と解するのが相当である。

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第3 当裁判所の判断

1 争点(1)(本件経済的利益の所得区分)について
(1) 一時所得と雑所得の区別
ア 所得税法34条1項は,「一時所得とは,利子所得,配当所得,不動産所得,事業所得,給与所得,退職所得,山林所得及び譲渡所得以外の所得のうち,営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の一時の所得で労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しないものをいう。」と規定し,同法35条1項は,「雑所得とは,利子所得,配当所得,不動産所得,事業所得,給与所得,退職所得,山林所得,譲渡所得及び一時所得のいずれにも該当しない所得をいう。」と規定している。
本件経済的利益は,一時所得及び雑所得以外の所得区分に当たらないことは明らかであるから(この点に争いはない。),一時所得に当たらなければ,雑所得に当たることになる。
イ そして,所得税法が前記のような所得区分を設けて税額計算に差異を認めるのは,応能負担の原則を建前とするという同法の性格に由来するものと考えられるところ,一時所得の特色が,臨時的又は偶発的に発生する利得であるため,一般には担税力が低いと考えられるというものであることからすれば,同法34条1項にいう「労務その他役務の対価」とは,給付が具体的又は特定的な役務行為に対応する等価の関係にある場合に限られるものではなく,広く給付が抽象的又は一般的な役務行為に密接に関連してされる場合を含むものと解するのが相当である。
ウ この点,原告は,所得税法34条1項の「労務その他役務の対価」という文言は,報酬としての性質(報酬性)があるか否かという観点から対価の対象を限定する趣旨であって,報酬性がなければ,「役務の対価」に当たらないというべきであると主張している。
しかし,前記の所得税法の趣旨に照らせば,「労務その他役務の対価」という文言を報酬性がある場合に限定する趣旨であると解釈する根拠はないから,上記の原告の主張は採用することができない。
エ そこで,前記イの観点から,本件経済的利益が「労務その他の役務の対価」としての性質を有するか否かについて検討する。
(2) 認定事実
前記第2の2の前提事実(以下「前提事実」という。)に加え,証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
ア 本件組合の組成の背景事情等
本件組合は,Bの企業再生を目的として次のようなスキーム(以下「本件スキーム」という。)に基づいて組成されたものであり,本件新株予約権が本件組合に付与され,本件組合が新株予約権を行使し,組合員に権利行使による経済的利益が帰属することは,すべて本件スキームの一環としてあらかじめ仕組まれたものである。
(乙2の1及び2,乙4,5)(ア) まずE組合を組成し,同組合に有利発行に当たらない新株予約権(第1回新株予約権及び第2回新株予約権)をBの取締役会決議により付与し,同組合がその新株予約権を行使することによってBの主要株主となる。
(イ) Bは,取締役会において,株式併合及び本件組合に対する第三者割当てによる新株予約権の発行を決議し,株主総会で株式併合及び新株の権利行使価額を株式併合前の株価を基準にして決めることを内容とする第三者割当てによる新株予約権発行を決議する。
(ウ) B株式の併合により,株式併合前の発行済株式総数を10分の1に減らすことによって,B株式の株価が10倍に高騰する。
(エ) Bは,本件組合に対し,新株の権利行使価額を株式併合前の株価を基準にして決めることを内容とする第三者割当増資を行う。
本件組合は,新株予約権の付与を受け,権利行使することにより,株式併合により資産価値が10倍となったB株式を取得し,これを本件組合の組合員に現物分配することによって,利益を組合員に還元する。
イ 本件組合による役務提供の約束と実施
(ア) Bは,インターネット上の同社ホームページで,平成▲年▲月▲日付け「第3回新株予約権の発行等に関するお知らせ」(以下「本件お知らせ」という。)として,1当該新株予約権の発行目的として,自動車部品の製造・販売,商業施設の開発,情報コンテンツの開発,その他の新規事業へ参画し,企業再生及び業績向上を図ることとし,その事業資金の調達のため総額25億▲万円の新株予約権を発行することにしたこと,2当該新株予約権の行使価額が,株式併合後においても1株につき22円とした理由として,新規事業は,その情報,ノウハウ,人材の提供及び資金支援について,当該新株予約権の引受先である本件組合が長期安定株主となり,Bと一体となって取り組む旨の提案を受けていること,しかし,100%成功する保証のある事業はないことなど諸般の事情から,株式併合後においても株式併合前の株価を基準としたこと,3第三者割当てとした理由として,単なる資金問題のほかに投資家による新規事業の支援という特殊な事情が存在することや経営を円滑かつ安定的に運営する観点からも,長期安定株主構成を重視したことによることなどを公表していた。(乙13)
その後,Bと本件組合は,平成18年6月20日付け覚書(以下「本件覚書」という。)を作成し,本件新株予約権の発行の目的について,1Bは,遊休資産及びその保有技術を活用し,企業再生・業績回復を図るために,自動車用部品の製造・販売,商業施設の開発,情報コンテンツの開発,その他の新規事業への参画を予定していること,2本件新株予約権の発行は,1の新規事業の事業資金調達及び当該新規事業に関して情報・ノウハウ・人材の提供及び資金支援を行うBの長期安定株主の創出を主たる目的としていることを確認している。(乙16)
(イ) 本件組合を引受先とする新株式1億1670万株のうち約4500万株がFグループに割り当てられているところ,F株式会社(以下「F」という。)は,実質的には本件組合の業務執行を中心的に行っていた組合員である。
Fの取締役であるGは,Cの代表取締役HからBの企業再生をしないかと話をもちかけられ,HやFの取締役であるIらと相談し,本件組合を作って,Bの企業再生に取り組むこととした。
本件組合の主要メンバーであるCのH,FのG,Iらは,Bの取締役及び監査役を刷新する必要があると考え,Hが代表取締役としてJを,監査役としてK及びLをそれぞれ推薦し,Iが取締役に,Gが監査役になることなどを相談し,平成17年6月29日付けで上記の相談のとおりBの役員を刷新した。
そして,IやGは,Bに対して,新規事業として遊休地を活用したレンタカー事業の提案をしたり,M&Aの仲介先の紹介や投資のアドバイス等を行ったりするなどした。
(甲79,80,乙11,20から23まで)
(3) 前提事実及び前記(2)の認定事実によれば,そもそも本件組合は,Bの企業再生のための本件スキームに基づいて組成されたものであること,Bは,平成▲年▲月に,本件お知らせで,本件新株予約権の行使価額を低額にした理由として,新規事業の情報,ノウハウ,人材の提供及び資金支援を,本件組合が長期安定株主となりBと一体となって取り組む旨の提案を受けているからであると公表していたこと,Bと本件組合は,同18年に新株予約権発行の目的として上記の提案内容を本件覚書で確認していること,実際に本件組合の主要組合員であるCやFが,本件組合の組合員として,Bに対し,新規事業の提案,人材の提供,M&Aや投資などの経営に関する助言その他の役務の提供を行ったことが認められる。
これらの事実からすれば,Bが本件新株予約権を発行するに際し,本件組合が長期安定株主となって,新規事業の情報,ノウハウ,人材の提供その他の役務の提供を行うことをBに約していたこと,だからこそBは本件組合に対し有利な発行価額で新株予約権を割り当て,新株予約権の行使に際し払込みをすべき額も低額とし,新株予約権の行使により経済的利益が発生する仕組みとしたことが認められる。
そうすると,本件組合が本件新株予約権を行使して本件株式の発行を受けることによって得られた経済的利益は,本件組合によるBに対する役務の提供の対価としての性質を有しており,それがそのまま本件組合契約に基づき原告に帰属するのであるから,本件経済的利益は「役務の対価」としての性質を有するというべきである。
(4) 原告の主張について
ア 原告自身による役務提供
原告は,原告自身が役務の提供をしなければ役務の対価であるということはできない旨主張する。
しかし,本件経済的利益については,本件組合が新株予約権の行使によって取得した役務の対価としての性質を有する経済的利益が組合員である原告に帰属するという仕組みになっているのであるから,原告自身が直接役務の提供をしていなくても,その経済的利益の役務の対価としての性質が変わるものではない。
したがって,この点の原告の主張は採用することができない。
イ 本件お知らせ
原告は,本件お知らせはBの一方的なリリースであり,リリース作成者が株主総会を乗り切るべく苦心して本件組合から提案があった旨の事項を記載した可能性も否めず,本件組合からの役務提供の提案や約束はなかった旨主張する。
しかし,特に上場企業については企業情報の正確な開示が重視されている社会情勢の中で,Bがこのような点について殊更虚偽の内容の情報を公表をするとは通常考え難い。
原告がいうリリース作成者の苦心作という主張は,およそ証拠に基づかない憶測にすぎず,到底採用することができない。
原告は,平成21年3月30日付けの回答書(甲46の2)を根拠に,提案があったという客観的証拠がないと主張しているが,本件お知らせは,平成▲年▲月当時に作成され公表されていた正に客観的証拠というべきである。
また,前記認定事実のとおり,その提案の内容と同様の新規事業の提案や情報提供,人材の提供等を実際に本件組合が行っていることや,本件覚書の内容からも,本件新株予約権の発行に当たって,本件お知らせに記載されているような提案や約束がされていたことが裏付けられるというべきである。
したがって,この点の原告の主張は採用することができない。
ウ 本件組合による役務提供
原告は,Fと本件組合とは別であり,FからBに対して新規事業の提案等が行われたことがあったとしても,本件組合がBに対して役務の提供を行ったことはない旨主張し,Fの取締役I及び同Gの各陳述書(甲79,80),Bの元代表取締役のJの陳述書(甲81),Bの総務部長であったMから原告代理人が聴取した電話聴取書(甲82)を提出している。
しかし,前記認定のとおり,そもそも本件組合は,Bの企業再生のためにFらによって組成されたものであり,本件スキームにおいて,本件組合がBの企業再生を支援する役割を果たすことになっているところ,Fグループは,本件組合が新株予約権行使によって取得する1億1670万株のうち約4500万株を割り当てられ,本件組合の実質的な業務執行を担っていた正に本件組合の中心的存在の組合員であるから,そのFが行ったBの企業再生のために新規事業の情報やノウハウの提供,人材の提供,経営への助言等の役務の提供は,本件組合員として行ったものと認めるのが相当である。
原告提出の前記各陳述書及び電話聴取書において示されたI,G,J及びMの各認識は,この認定を左右するものではない。
したがって,この点の原告らの主張は採用することができない。
エ 原告は,N教授の意見書(甲77の1。
以下「N意見書」という。)5頁から7頁の「本件新株予約権の付与は,役務の「対価」でない」旨の意見を引用して,本件経済的利益は対価性のない所得であると主張している。
この点,N意見書5頁から6頁には,「本件は,株主等の投資家に対する新株引受権の付与であ」り,「株主等の投資家から対価を生じさせるような何らの役務の提供もなされていない」との前提に立った上で,「株主がその投資を守るために行う行為からは報酬は生じない」,「本件新株予約権の権利行使益は,投資家が投資対象として発行会社の状況と発行会社の株式の時価等を勘案し権利行使をした結果得られた偶発的な所得であり,一時所得となる」との意見(以下「N意見」という。)の記載がある。
しかしながら,そもそも,本件組合は,新株予約権を付与される時点ではBの株主ではなかったのであり,株主に新株予約権(N意見書では「新株引受権」)が付与された場合ではない。
また,前記認定事実のとおり,本件組合はBに対し実際に役務の提供を行っており,何らの役務の提供もされていないことを前提とするN意見は,明らかに本件の事実関係とは異なった前提に立つものである。
さらに,N意見書には本件スキームについての記載がなく,N意見は,本件組合の組成や本件新株予約権の付与,権利行使による経済的利益の取得が,すべて本件スキームによってあらかじめ仕組まれたものであるという事実認識を欠いていることが明らかである。
本件スキームにおいて,本件経済的利益は,Bの企業再生のために,Bの株主でない本件組合が長期安定株主となって役務提供等をすることを約束することにより,その見返りとしてBから本件組合(利益の帰属は組合員)に与えられるというものである。
そうすると,本件組合によるBに対する役務提供の約束が「株主が自分の投資を守るために行う行為」でないことは明らかというべきである。
結局,N意見は,本件とは異なった前提に立つものといわざるを得ないから,これを採用することはできない。
したがって,N意見を引用して対価性がないとする原告の主張も採用することはできない。
オ その余の原告の主張をみても,いずれも本件経済的利益に役務の対価としての性質があるという判断を左右するようなものではない。
(5) 以上のことからすれば,本件経済的利益は,役務の対価としての性質を有するから,所得税法上の「一時所得」には当たらず,「雑所得」に当たるというべきである。
2 争点2(本件権利行使時のB株式の時価)について
(1) 所得税法36条1項は,その年分の各種所得の金額の計算上収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額について,金銭以外の物又は権利その他経済的な利益をもって収入する場合には,その金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額とする旨規定し,同条2項は,同条1項の金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額は,当該物若しくは権利を取得し,又は当該利益を享受する時における価額(いわゆる時価)とする旨を規定している。
ここでいう時価とは,ある時点における当該資産の客観的交換価値を指すものであり,それぞれの財産の現況に応じ,不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額であって,いわゆる市場価格をいうものと解するのが相当である。
所得税法施行令84条3号は,旧商法280条ノ21第1項の決議に基づき有利発行された新株予約権の収入金額は,当該権利の行使により取得した株式のその行使の日における価額から当該新株予約権の行使に係る新株の発行価額を控除した金額による旨規定している。
そして,その株式のその行使の日における価額について,所得税基本通達23〜35共−9(1)(平成18年課個2−18,課資3−10,課審4−114による改正前のもの。)は,新株予約権の行使により取得する株式が証券取引所に上場されている場合には,その終値による旨定めている。
これは,いわゆる時価が事後的な判断基準として用いられるため,課税の公平を確保する観点からは,一定の客観的な基準によって認定された価額であることが要請されるところ,証券取引所に上場されている株式の公表されている価格は,市場を通じた不特定多数の当事者間の自由な取引によって成立した客観的なものであり,当該取引日の終値は一般に時価として広く認識され利用されているため,それを時価とするのが最も妥当であるからであり,当該通達の定めは合理的なものということができる。
したがって,新株予約権の行使により取得する株式が証券取引所に上場されている場合には,その株式の権利行使の日における価額(時価)は,特段の事情がない限り,同取引所の終値によるのが相当である。
(2) B株式は,D証券取引所市場第○部に上場されているから,平成18年1月26日の本件新株予約権の行使により取得した株式のその行使の日における1株当たりの価額は,特段の事情がない限り,同日の同証券取引所の終値である195円とするのが相当である。
(3) 原告は,次のとおり,原告が取得した株式の一部については,平成18年1月26日の証券取引所の終値によるべきでない特段の事情がある旨主張しているので,この点について検討する。
ア 譲渡禁止特約
(ア) 原告は,原告が実際に取得したB株式190万株のうち145万株については3年間の譲渡禁止が条件とされており,かつ,当該株券を本件組合が保管することになっていたため,原告が自由に処分することができない状況にあったから,証券取引所の終値によるべきでない特段の事情があると主張している。
(イ) しかしながら,原告が主張するBと本件組合との間の譲渡禁止特約については,Bの「筆頭株主である主要株主の異動及び主要株主の異動に関するお知らせ」(甲12)の中に,本件組合から約7500万株について原則として3年間の長期保有のお約束を頂いているという趣旨の文言があり,そのような趣旨の合意の存在は認められるものの,その合意内容を具体的に示す契約書等の証拠がないためその詳細は不明であり,その合意が法的拘束力を有するものか,いわゆる紳士協定にすぎないものかは明らかでない。
また,本件組合と原告との間の譲渡禁止特約については,確約書(甲11)の中に,原告が本件組合に対し平成20年8月10日まで145万株の第三者への譲渡を行わないことを確約する旨の記載があるものの,他方で,同じ内容の確約書(乙24)に署名している組合員のHは,同人の確定申告書(乙25)によれば,本件組合を通して取得した369万株のうちその確約書において譲渡禁止とされている120万株を含む349万株を譲渡禁止期間とされている平成18年中に証券取引所を通じて譲渡している事実が認められることからすれば,その確約書に基づく合意についても,果たして法的拘束力があるものか,いわゆる紳士協定にすぎないものか明らかでない。
そして,仮にBと本件組合との間及び本件組合と原告との間の上記各合意に法的拘束力があったとしても,そもそも原告が本件権利行使により取得した株式を自由に処分できるか否かは,本件新株予約権の権利行使日におけるB株式の客観的交換価値に具体的な影響を及ぼすものとはいえないと解するのが相当である。
したがって,本件において証券取引所の終値によるべきでない特段の事情があるということはできず,この点の原告の主張は採用することができない。
(ウ) なお,原告は,譲渡禁止特約のある株式についてはその譲渡禁止特約解除時に所得が実現したものと解すべきであり,その経済的利益を計上すべき年分は平成20年分であり,平成18年分ではない旨も主張している。
しかし,本件新株予約権の権利行使日に権利行使による本件経済的利益が発生し原告に帰属している以上,取得した株式を譲渡できるか否かにかかわらず,本件権利行使日に収入があったというべきである。
所得税法施行令84条3号の規定もこのことを当然の前提としていると解される。
したがって,原告のこの点の主張は採用することができない。
イ 株価の大幅な変動
(ア) 原告は,本件権利行使は,株式併合による押上げ効果の反動による株価の下落時期においてされており,しかも新株予約権の行使に伴い,大量の新株発行により株価の大幅な下落が予測されていたのであるから,本件権利行使日における証券取引所の終値は適切な時価を反映していないとして,前記特段の事情があると主張している。
(イ) しかし,原告の主張する株式併合後の株価の急騰や新株発行後の株価の下落などの事情は,Bによって事前に公表されている情報であったり,公表された情報から一般投資家が十分に予想することができるものであるから,証券取引所の終値は,そのような事情をも反映した自由競争の原理によって形成されたものと認められる。
したがって,原告が主張するような事情があったからといって,証券取引所の終値が適正な時価であることを否定する理由とはならず,前記特段の事情があるということはできない。
したがって,この点の原告の主張は採用することができない。
(4) 以上のことからすれば,平成18年1月26日の本件新株予約権の行使により原告が取得したB株式のその行使の日における1株当たりの価額は,すべて同日の同証券取引所の終値である195円とするのが相当であり,これを基準として本件経済的利益を算出すべきである。
3 本件各処分の適法性
(1) 本件更正処分の適法性
前記1及び2によれば,本件経済的利益は雑所得であり,本件権利行使の日のB株式の1株当たりの時価は195円であるから,これらを基に算出した原告の平成18年分の課税総所得金額及び納付すべき所得税額は,別紙2の被告主張額のとおりであり,それらは本件更正処分における課税総所得金額及び納付すべき所得税額と同額であるから,本件更正処分は適法である。
(2) 本件賦課決定処分の適法性
前記(1)のとおり,本件更正処分は適法であるところ,原告は本件更正処分により納付すべき税額の基礎となった所得について,過少に申告していたものであり,過少に申告していたことについて,国税通則法65条4項に規定する「正当な理由」があると認めることはできない。
したがって,過少申告加算税の額は,別紙2記載の被告の主張のとおりである。
そうすると,本件賦課決定処分における過少申告加算税はこれと同額であるから,本件賦課決定処分は適法である。

第4 結論

よって,原告の請求はいずれも理由がないから,これらをいずれも棄却することとし,訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条,民訴法61条を適用して,主文のとおり判決する。

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