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なお,被告病院の医師らは,証人尋問において,PCPS装着のため
には,準備に時間がかかる上,血行路確保も難しい旨述べるが,被告病
院においては,15分程度でPCPSを準備できたはずであるし,静脈
切開を行ってでも血行路を確保することは可能である。
(ウ) ヘパリンを投与すべきこと
被告病院の医師は,肺動脈血栓塞栓症が疑われる段階(Dがトイレで
倒れた段階)で,ヘパリンを投与すべきであった。
ヘパリンは血栓の形成を防止する作用があるので,肺動脈に詰まった
塞栓同士の間に新たな血栓が形成されるのを防ぐので,更なる重症化を
防止できるから,Dに対し,ヘパリンが投与されていれば,肺動脈血栓
塞栓症による心肺停止は生じなかった可能性がある。
(被告の主張)
原告らが主張する肺動脈血栓塞栓症によるショック状態に対する措置につ
いて,いずれも被告病院の医師らに過失はない。
特に,肺動脈血栓塞栓症に対する診断・治療の点については,一般に手術
後の患者がショック状態に陥った場合には,急に意識障害を生ずる疾患のす
べてを考慮に入れなければならず,肺動脈血栓塞栓症のみを特別疑うことな
どできない。
患者に突然意識障害が現れた場合には,まずその原因を探索す
る必要があり,その手段として最初に試みる有用な検査がCT検査なのであ
る。
その意味で,本件において,被告病院のG医師らが,トイレで倒れたD
をCT室へ運び込んだことは,適切な診療行為である。
原告らは,Dがトイレで倒れた時点で,被告病院のG医師らは,Dに対し,
肺動脈血栓塞栓症を疑って,PCPSの準備・装着やヘパリンの投与を行う
べきであった旨主張する。
しかしながら,原告らの主張は,Dが肺動脈血栓塞栓症を発症していたと
いう結果を知ったからこそなし得るものであり,臨床の現場においては非現
実的な主張である。
Dがトイレで倒れた時点においては,肺動脈血栓塞栓症
のみならず,脳出血の可能性も否定できず,万が一脳出血であった場合,低
分子ヘパリンなどを投与すれば致命的となる。
また,肺動脈血栓塞栓症と診断できない段階でPCPSを装着することな
ど,医療水準に照らして求められていない。
すなわち,肺動脈血栓塞栓症の
確定診断がついており,PCPSの適応があれば,その装着を考慮すること
もあり得るが,その疑いにすぎない段階でPCPSを装着又は準備する必要
があるなどという標準的な医学文献は存在せず,むしろ,医学に携わる者に
とって最も権威ある教科書であるハリソン内科学の肺血栓塞栓症の項では,
PCPSを用いた治療法への言及はない。